< 年次有給休暇をめぐる Q&A >

 

Q1.年次有給休暇の買い上げは可能か?

 

従業員より、退職予定日までに消化できなかった「年次有給休暇の買い上げ」を請求される場合があります。労基法に年休の買い上げを禁止する旨の規定はありませんが、年休を買い上げることは原則として禁止されているものと考えられます。労基法39条が労働者の年休取得権(請求権ではありません)を保障した意義は、労働者の休養や活力を育成する点にあり、もし「買い上げ」という行為を認めるならば、この労働者の休養等を実現することができなくなることは明らかです。別の言い方をすれば「買い上げ」により年休の取得を阻害していることになります。従って、年休を買い上げることを約束し、年休数を減ずる行為は労基法に抵触する為「無効」になります。    但し、例外として年休の買い上げが認められる場合があります。①会社が労基法を上回って付与している年休日数。②実際に退職する段階で消化されていない年休日について、労働契約が消滅することを原因として消滅する年休日数。③労基法115条により、既に「年休取得権」が時効消滅している年休日数。①~③に該当する場合は、そもそも労基法の与り知らぬ事項である為、年休を買い上げる行為は違法とはなりません。但し、事業主に「年休の買取り義務」はありませんので、拒否することはもちろん可能です。実務的には、業務の引き継ぎの必要性より、出社を拒否/年休取得をしている退職予定者への交渉材料に使われる手法であり、積極的に買い上げに応じたり、就業規則等に規定している企業は少数派です。

 

Q2.年休を取得した場合は「繰越分年休」「新規発生分年休」のどちらを充当するのか?

 

年度中に使用しなかった「年休」は労基法115条及び行政解釈により、次年度に限り「繰り越して行使できる(2年間の消滅時効が認められる)」ことになります。繰越分の年休と、新規に発生した年休とがどちらも使用できることは、労働者にしてみれば大した問題ではありませんが(年休を1日分取得することに変わりは無い為)、会社側にとっては重要な意味を含んだ問題と言えます。例えば、40日分の年休(繰越20日/新規20日)を取得する権利のある従業員が、10日間の年休を年度内に消化した場合、繰越分より充当した場合の翌年度の繰越日数は20日ですが、当期の分より充当した場合の翌年度の繰越日数は10日となり、翌年度に繰り越される日数に差異が発生します。退職時に会社を困らせる目的(出勤拒否/業務の引継拒否など)で、未消化の年休を全て消化する労働者も多く、会社側も退職を前提とした年休者特に対する「時季変更権」を行使することはできない為、本年度に発生した日数から減らしていけば、当該状況に陥った場合であっても、被害を少なくすることが可能となります。労基法は「いずれの分」から充当することに対しては特段の定めをしていませんので、年休は当期(新規発生分)より充当する旨を就業規則等で規定しておくことは有効な対策となります。

 

Q3.時間単位年休を取得した日の「残業開始時刻」はいつになるのか?

 

労基法39条4項の規定により、「時間単位」で年次有給休暇を付与することが認められています。この制度は、もともと「日単位」の付与が原則である年次有給休暇について、事業場で労使協定を締結すること  /   年に5日分の付与を上限とすることなどの要件を整備することにより、例えば1時間、2時間といった「時間単位」で年休を付与できるものです。労基法は「実労働時間主義」である為、例えば始業時刻が午前8時/終業時刻が午後5時(休憩1時間)の場合で、午前10時に出社して午後7時まで勤務したとしても、実際に働いた時間(実労働時間)は法定労働時間である8時間以内である為、時間外労働は発生しません。この取扱いは、年次有給休暇を付与した場合も同様となります。これは労基法37条に定める割増賃金が、法定労働時間を超えて働かせた場合に、その補償として支払が義務付けられたものだからです。但し、午前の2時間(8時~10時)については、時間単位年休を実際に取得している為、年休の取得分として「通常の賃金」を支払うことになります。尚、就業規則にて「始業時刻前、終業時刻後の勤務に対して残業代を支払う」との規定である企業は、上記の場合でも「割増賃金の支払義務」が発生しますのでご注意下さい。

  

 

 

   

 湊元社会保険労務士事務所

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