< 懲戒処分をめぐる Q&A >

 

Q1.無断欠勤(日数)と懲戒処分の関係

 

多くの企業では、懲戒解雇事由として「無断欠勤が○○日以上に及んだとき」や「正当な理由無く遅刻、早退又は欠勤をしたとき」などの条項を定めており、この種の規定が懲戒処分を科す根拠となっています。無断欠勤の該当性については、「何日以上の無断欠勤」という要件を形式的に判断をするのでは無く、無断欠勤(企業秩序を乱す行為)に該当するか否かを実質的に判断する必要があります。(正当な理由の無い欠勤を含む)連続する無断欠勤を理由とする解雇について、労基法20条1項に対する「解雇予告手当が不要な場合に関する厚生労働省の通達」が参考になります。通達は、同条の「労働者の責めに期すべき事由」について「原則として2週間以上正当な理由無く無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」を挙げています。この様な場合には、原則的に解雇も有効とされると考えられますので、連続する無断欠勤については「2週間」が懲戒解雇の一応の目安となるでしょう。

 

Q2.私的行為に関する懲戒処分は可能か

 

勤務時間外や休日など(私的時間)に事件/事故を発生させたり、業務外で生じた個人的トラブルが原因で会社が迷惑を被る場合があります。懲戒処分の対象となる事例が多いのは業務命令に違反した場合ですが、社員が就業時間外に企業の外でする私的行為には、労働契約に基づく命令権/懲戒権は原則として及びません。しかし、私生活上の非行であっても新聞沙汰になって顧客・取引先の信用を失うことになれば、当該行為は充分に懲戒処分(解雇を含む)の理由に成り得ます。判例に於いても、私的行為に対する企業の「懲戒権の行使」を認める判決も多く、社員が企業外で行った非行・犯罪の性質、社員の企業での地位、企業規模・業種や社会に於ける位置付けなどを総合的に勘案した結果「企業の社会的評価に重要な悪影響がある」「企業の円滑な運営に支障をきたす怖れがあるなど、企業秩序に影響を及ぼす可能性がある」などのケースに於いて懲戒権の行使を相当としています。但し、前提として「就業規則等に具体的な定めがあること(就業規則に定めの無い理由による懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効になります)」「服務規律の規定を、懲戒制度と結び付けて規定してあること(就業規則の服務規律に規定があるだけでは懲戒処分を科すことはできません)」が必要になります。飲酒運転で検挙された社員の懲戒解雇が常に有効になるとは限りませんが、運送会社の運転手が業務終了後に飲酒運転で検挙された事例では、業務/職種の特性を踏まえて懲戒解雇が有効と判示されており、国家公務員が職場外で暴行を加えた事例では、公共性が高いことを重視して「一般私企業等の従業員より厳しく規制される合理的な理由がある」として懲戒処分を容認した判例があります。

 

Q3.諭旨退職は「自己都合退職」と同様か

 

懲戒解雇の前段階として「諭旨(ゆし)退職」という規定を持つ就業規則は少なくありません。外見上は退職届の提出を伴う場合が大半ですので、自己都合退職の一種と誤解される場合がありますが、就業規則の条文位置からも「懲戒処分」であることが分かります。法的効果としては「労働契約の終了」ですので、「懲戒解雇」と同様に使用者による一方的な労働関係の解消という形成権の行使となります。諭旨退職は、懲戒解雇を「一等減ずる」ものです。従って、懲戒解雇では退職金不支給となりますが、諭旨退職では退職金の全部又は一部を支給するとの規定が多くの企業で採用されています。懲戒解雇は「極刑」であるのに対し、重大な非違行為であっても「情状が認められる場合」に該当することになります。一般的には、退職届を提出されて(又は退職届の提出を強制的に促して)諭旨退職としますが、従業員の立場からすれば「懲戒解雇を免れた」との印象が強く労使トラブルに発展する可能性も低くなる効果があります。就業規則によっては「諭旨解雇」との名称である場合もありますが、「諭旨退職」と規定することにより従業員も受け入れ易い面もあります。尚、文中の「労使トラブル」とは諭旨退職として扱うことにより、従業員と懲戒処分の有効性を争うリスクの意味です。

  

 

 

   

 湊元社会保険労務士事務所

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