< 退職/契約の中途解除をめぐる Q&A >

 

Q1.口頭による「退職の意思表示」は有効か?

 

一般的には「退職30日以上前に退職願を提出し、会社の承認を得なければならない」とする就業規則が多いと思われます。従業員にとって「退職」は極めて重要な事項なので、書面による「退職の意思表示」を要求すると共に、口頭による退職請求は認めないとのルールを定めたものになりますが、口頭による意思表示だけでは退職の効果は生じないのでしょうか。労働法令に於いて、退職の意思表示は「文面」で無ければ認めない旨の規定は無い為、人事権者に対する明白な意思表示であれば「口頭」による意思表示であっても有効との解釈になります。しかし、後日言った/言わないの紛争に発展した場合には、有効な解決手段(発言を立証する為の証拠資料)を欠くことになります。判例では、就業規則の定めに従った退職願(届)の提出を求める傾向が強く、「雇用関係上最も重大な意思表示に疑義を残さない為、退職に際してはその旨を書面に記して提出すべきであり書面による申し出が無い限り、退職者と取り扱わないことは認められる」と判示しています。但し実務に於いては、本人が退職の意思表示を「真正」にしていることが明白であれば、会社の承諾は退職(雇用関係の消滅)の要件では無い為、書面提出の有無に係らず「退職」として処理せざるを得ないことになります。

 

 Q2.有期雇用者の中途解除は法的に認められるか?

 

民法(628条)及び労働契約法(17条)に於いて、有期雇用者を解雇する場合には「やむを得ない理由」が必要とされています。正社員を解雇する場合では「客観的に合理的な理由」及び「社会通念上相当と認められる理由」が求められますが、有期雇用者を契約期間途中で解雇する場合には、これよりも更に厳格で具体的な事由が必要とされています。又、訴訟になった場合「やむを得ない事由」があることについては使用者側が主張・立証責任を負うことになります。しかし「やむを得ない事由」については、経営者が考える程簡単では無く、事業業績が悪化して余剰人員が発生しており、赤字決算が確実な状況であれば「人員整理の必要性」があると一般的には考えられますが、判例では「業績悪化が急激なものであっても数ヶ月間の雇用期間の終了を待つこと無く、その途中で解雇する事情があるとは想定できない」との理由で解雇を無効とした判決が増えています。解雇が「無効」になった場合でも、使用者が雇用期間満了日に更新拒否をすることが通例ですが、従業員側より「不当な雇止め」として、解雇権濫用法理の類推適用/整理解雇の有効性の問題等で争われるケースも増加しています。

 

Q3.一度提出した「退職届」は取り消せるか?

 

労働者が在職中の会社に「退職届」を提出した後、予期せぬ事情(例えば、転職先に採用され出社日も決まったが、転職希望先の経営/業績悪化を理由に採用取り消しになるなど)により「退職を撤回したい」と申し出ることがあります。法的に明確な区分はありませんが、一般的に「退職願」は、労働契約の合意解約に関する申込みであり、会社側の承認/承諾が行われる前であれば撤回は可能であるとの考え方があり、一方「退職届」は労働者側からの労働契約の解除通告であり、撤回は不可能との判例があります。単純に「名称」により判断できるわけではありませんが、少なくとも「退職届」については経緯/事情などの実態に則した判断となる為、「解約告知(一方的な解除通告)」との判断であれば、人事権者に告知された時点で労働契約終了の期日(退職日)が決定されたことになる為、「退職届」は撤回できないことになります。又、退職願の撤回に関しても撤回が認められるか否かの要素として、書面提出後の「時間の経過」が大きな意味を持ちます。上記の場合(採用取消を理由とした撤回)であれば、退職を会社が承認した後に後任者の採用が決定した後であれば、後任者の処遇を含めて経営上重大な支障が発生するおそれがある為です。退職の申し出に関する「社内ルール」を就業規則等で明確にしておくことが、後日の労使トラブルを未然に防ぐ為の「予防策」となることにご注意下さい。

  

 

 

   

 湊元社会保険労務士事務所

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