< 従業員への損害賠償をめぐる Q&A >

 

Q1.損害賠償請求に於ける労使間の「認識」の相違(問題点)は?

 

会社としては「多額の費用が発生したので、個人の責任で全額を弁償するのは当たり前」との認識であり、従業員は「自分のミスで事故を起こした(会社に損害を与えた)のは事実として認め謝罪するが、何で全額を弁償しなければならないのか」と考えることが通例と思われます。この場合の「負担額/負担率」等については「当事者間で話し合い、自主的に解決する」ことが大原則となりますが、実際のところは「不満ではあるが、解雇されては困るので会社側の指示に従う」ケースが大半を占めます。弁償額が「高額」である場合は個人の資産では返済不可能な場合もあり、第三者の助言で会社側に抗議をしたり、場合によっては「退職問題(退職時等の一括返済に関して新たなトラブルが発生)」する可能性も考えられます。従業員の納得/合意が得られていれば「問題」が発生する余地はありませんが、問題がこじれた場合には「感情論」に発展したり、社内への影響も否定できません。 

 

Q2.従業員の「法律で4分の1が限度と決まっている」との主張は正当か?

 

会社側の指示に対して、その場では「分かりました」との意思表示をした場合であっても、専門の相談機関で「判例の傾向」を教示されると「全額弁償は違法」との主張に変わることが通例です。具体的には「全額弁償は違法であり認められない」や「最高裁判決でも4分の1が相場と決まっている」などの主張が類型と思われますが、当該主張に対して会社側は反論できるでしょうか?最高裁判決には、確かに「労働過程での過失により、使用者に損害を与えた場合の賠償責任」についての判決があります。この判決(茨城石炭商事事件)の考え方はその後の裁判に於いて、ミスや損害の生じる危険性の高い自動車運転業務、商取引・販売業務・監督業務などに際して損害が発生した場合など、多様なケースでの判断基準として定着しています。この判決では「修理代金の4分の1が相当」との結論であり、これを超える部分は「信義則に反し、権利の濫用として無効」とされていますが、この事件では社有車が「対物賠償責任保険」「車両保険」に加入しておらず、運転自体が臨時的業務であったこと、従業員の勤務成績は普通以上との要素を総合的に勘案されて負担率が判示されたに過ぎません。従って、最高裁判決を根拠に「法律で4分の1と決まっている」との主張は誤っており、単に「当該事件の判示が4分の1(労働者側の負担率)であった」だけのことです。つまり、付帯要素が異なる個別事案に対して「法的負担率」等が定められているとの意味ではありません。

 

Q3.損害賠償請求に関する「問題解決」の方向性は?

 

会社側が「全額弁償」を強行に求め、従業員が「全額弁償には絶対に応じない」との主張であれば話し合いは平行線であり、お互いにストレスを抱えることになります。また、会社側の主張に反発して従業員が退職した場合には(法的に解決しない限り)結果として会社が費用の全額を負担する可能性もあります。民事上の問題は前述の様に「当事者間で話し合い、自主的に解決する」ことが原則ですので、ここで参考になるのは、やはり「判例の傾向」となります。つまり、従業員の主張を全面的に認めるとの趣旨では無く、判例の考え方は労使間の問題を解決する場合の指針/方向性になると考えた方が良さそうです。判例に於いて特に重視されているのは「使用者責任」と「損害の公平な分担」になります。使用者責任とは、従業員が仕事中に第三者に損害を与えた場合、その者を雇用している使用者(会社)が負う「不法行為責任上の損害賠償責任」です。又、損害の公平な分担とは、会社は従業員を働かせることで「利益」を得ているので、自己・損害等の「不利益」についても同様に負担しなければならないとの考え方(判例の蓄積による)です。具体的には軽過失事例では完全免責(労働者の負担率「ゼロ%」)から損害の約30%の間であり、重過失事例では損害の約50%から75%の間で、労働者の賠償責任を認める判例が多いことより(仮に)裁判になった場合には「全額弁償」を求めることは、判例の流れより「主張・立証が困難」であることが分かります。

  

 

 

   

 湊元社会保険労務士事務所

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